小売業月次売上高レポートvol.28
ニューノーマルへ、7月は消費動向の変化が見られる
Hidden Gemsでは、上場企業を中心に月次売上高の開示がある小売業の既存店売上高、客数、客単価を毎月集計し、「小売業月次売上高レポート」と題して、毎月こちらのニュースにてご報告いたします。より詳細なデータや概要にご興味のある方は「お問い合わせ」までご連絡ください。
図表1:サブセクター別既存店売上高前年同月比伸び率(単純平均)(直近月降順、%)
出所:各社データよりHidden Gems 注:通販セクターは既存店売上高開示企業がないため、全店ベースでの数値を採用。上記単純平均値には、通販以外の一部企業で既存店売上高の開示がない企業の値を含みません。
22サブセクターのうち、プラスは12サブセクター:
7月の小売業合計既存店売上高は、前年同月比7.5%減、うち、純小売りは1.7%減、外食は21.2%減となりました。プラスのサブセクターは12サブセクターとなりました。
7月は、緊急事態宣言以降に見られたサブセクター間の過度な優勝劣敗は落ち着きつつある一方で、回復が引き続き鈍いサブセクターが一部見られるなど、ニューノーマルへ向けた新しい消費トレンドが垣間見える結果となりました。記録的な長雨や気温が前年を下回るなどのネガティブな気象条件に加えて、外出などの購買モチベーションの欠如から、百貨店やアパレル専門店では、在庫処分に伴う大幅な値下げにも拘らず、客数・客単価減に苦しむ結果となりました。また、緩やかな回復傾向は見られるものの、依然3密を敬遠する消費者マインドが強く、居酒屋、ファミリーレストランなどの外食は苦戦を強いられました。一方で、テレワークの拡大による家中(イエナカ)需要は引続き高く、ホームオフィス関連商材や収納、DIY・園芸用品など好調に推移しました。また、訪日外国人数は3,800人(前年同月比99.9%減)と低い水準となり、インバウンド需要は引き続き低調に推移しました。
7月は、活発な梅雨前線の影響から、東・西日本を中心に全国的に記録的な長雨となり、7月としては、1946年の統計開始以降最も降雨量が多くなりました。また、月間日照時間も7月として1946年の統計開始以降、1番短い月となりました。九州地域では大雨特別警報が発令され(「令和2年7月豪雨」)、月を通して断続的に河川の氾濫などが起こり、浸水や土砂災害などに見舞われました。中旬頃から、北から冷たい空気が流れ込んだことに加え、記録的な長雨によって日照時間も短かったことから全国的に気温が低く推移し、夏物衣料などの季節商材は低調に推移しました。
曜日回りは、前年同月に比べ休日が1日減となりました。
7月度データ集計企業数は、205社(純小売り144社、外食61社)でした。
サブセクター別伸び率:
上位3サブセクターは、通販(21.4%増)、ホームセンター(10.4%増)、家具・ライフスタイル型専門店(8.4%増)。下位3サブセクターは、居酒屋(38.2%減)、百貨店(24.3%減)、ファミリーレストラン(20.6%減)でした。
通販では、続く外出自粛や3密を敬遠する傾向から、通信販売などの非接触の購買チャネルが好調に推移し、ジェネレーションパス(3195)が52.6%増と全銘柄中第1位、アイケイ(2722)が23.8%増と全銘柄中第4位、MonotaRO(3064)が15.4%増と全銘柄中第11位と、各社好調に推移しました。
ホームセンターでは、自宅での滞在時間の拡大に伴い、家中需要が高まりDIY関連商材やガーデニングなどの園芸用品が好調に推移し、ハンズマン(7636)が20.9%増、島忠(8184)が14.6%増、コーナン商事(7516)が13.9%増となりました。
一方、百貨店では、新型コロナウイルス再拡大に伴い、外出自粛の傾向が強まったことに加え、記録的な長雨と天候不順を受けて客数が減少し、厳しい戦いとなりました。免税品売上は、訪日外国人客数の減少に伴い、各社9割超減と低調に推移したほか、国内消費はクリアランスセールの前倒しなどもあり売上の分散も見られ、松屋(8237)38.5%減、三越伊勢丹 (3099)27.3%減、パルコ(J.フロントリテイリング3086)25.2%減と、各社厳しい状況が続いています。一方で、巣ごもり需要の影響から、家具や家電、書籍などの雑貨類や、食料品が比較的堅調に推移したほか、ECやウェブ接客など、非接触の購買チャネルの売上が各社好調に推移するなど、新しい消費行動の片鱗が見られました。
ランク外のサブセクターでも、新型コロナウイルスの流行に伴う生活様式の変化や対策における企業間格差が顕著に見られました。
アパレル専門店では、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、大型商業施設の休館や外出自粛に伴う売上不振から、大幅な値引き施策などを実施するところが多く、第1四半期決算は粗利益率が前年同期比6.6ポイントのマイナスになるなど、大幅に悪化しました。また、既存店売上高は、6月に一時的な回復が見られたものの、7月は各社実施していた大規模なセール企画が振るわず、厳しい結果となりました。カジュアル衣料を取り扱うしまむら(8227)やファーストリテイリング(9983)は、それぞれ9.1%増、4.4%増と堅調に推移した一方、外出自粛やテレワークの拡大に伴い人と会う機会が減少したことで、ファッションへの関心が低下したことから、オンワードホールディングス(8016)が32.0%減、青山商事(8219)が29.2%減などと、ファッション衣料やスーツなどのビジネスウェアへのニーズの落ち込みが顕著に見られました。
コンビニエンスストアでは、巣ごもり需要を受けて冷凍食品や水など食料品のまとめ買いが拡大し、各社客単価が好調に推移するものの、客数減を補えない状況が続き、多くの企業でマイナス推移が続いています。7月は、感染の再拡大に加え、記録的な長雨や前年を下回る気温により需要が伸び悩み、既存店売上高は、各社マイナスで推移しました。冷凍食品などの保存が効く商品が好調に推移した一方、大雨による気温の低下に伴い、冷麺やアイスクリームなどの季節商材が低調に推移しました。大手3社では、ファミリーマート(8028)が10.8%減、ローソン(2651)が8.9%減と低調に推移する中、家中(イエナカ)需要に対応した品揃えをいち早く実行したセブン-イレブン・ジャパン(セブン&アイ・ホールディングス 3382))が5.1%減と、同業他社比健闘しました。また、郊外ロードサイド立地の多いスリーエフ(7544)も2.9%減と堅調に推移しました。
「3-12」トップスリー:
Hidden Gemsでは、既存店売上高の3ヶ月移動平均値(直近3ヶ月の平均値)と12ヶ月移動平均値(直近12ヶ月の平均値)の差異を「3-12(さんひくじゅうに)」と命名し、長期月次トレンドに対し、短期月次トレンドが上昇・悪化している企業をピックアップし、ご紹介していきます。
3-12の絶対値トップ3(直近3ヶ月の平均値が直近12ヶ月を大きく上回る):
藤久(9966)、ジェネレーションパス(3195)、レナウン(3606)
3-12の前月比改善(「3-12」の絶対値が前月に比べて大きく上回る):
京都きもの友禅(7615)、ベリテ(9904)、レナウン(3606)
既存店客数および客単価の推移:
7月の客数及び客単価は、それぞれ12.9%減、3.6%増となりました。7月は新型コロナウイルス感染症拡大の継続により、外食が敬遠されていることに加え、記録的長雨や低気温などの影響を受け、夏物衣料などの季節商材が振るわず、客数減を牽引しました。
客単価は、スーパーなどを中心に、巣ごもり需要によるまとめ買いが多く見られたほか、テイクアウトやデリバリーなどのサービスを提供する一部外食で、外出自粛やテレワークの実施による家族客の利用が増加し、プラスで推移しました。
図表2:既存店売上高・客数・客単価前年比3ヶ月移動平均値の推移(%)
出所:各社データよりHidden Gem